東京高等裁判所 昭和44年(ネ)824号 判決 1969年6月30日
控訴人 栄和商事株式会社
控訴人 小沢勇蔵
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。本件を東京地方裁判所に差し戻す」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の主張は原判決の事実摘示と同一であるからこれをこゝに引用する。
理由
本件記録によると、控訴人は東京地方裁判所昭和四二年(ケ)第一四二六号不動産任意競売事件における昭和四三年一二月一〇日の配当期日に出頭し、同事件につき作成された配当表に関しその主張のごとき異議を申立てたとして本件配当異議の訴を提起したところ、控訴人およびその訴訟代理人は適法に指定された原審での最初になすべき昭和四四年一月二〇日午前一〇時の口頭弁論期日に出頭しなかつたものであることが認められるから、任意競売手続に準用される民事訴訟法第六三七条の規定により控訴人は上記異議の申立を取下げたものとみなされ本件配当異議事件は目的の消滅により当然に終了したものと解すべきである。
もつとも、記録によれば、上記原審での口頭弁論期日には被告である被控訴人も欠席していることが認められ、右のように配当異議事件の口頭弁論期日に当事者双方が欠席した場合においても民事訴訟法第六三七条の適用があるか否かについては問題があるので、以下この点についての判断を加える。
民事訴訟法第六三七条は旧法においては「異議を取下げたものと看做す旨の欠席判決をなすべし」とされていたのを、欠席判決の制度を廃止し、同法第一三八条を設けた際に現行規定のように改正されたものであるが、右沿革的理由のみから直ちに第六三七条は第一三八条の特別規定であり原告が欠席した場合にだけ適用すべきもので、当事者双方が欠席した場合にはその適用がないと解することは相当ではないと考える。けだし第一三八条は対席判決をなす前提として、口頭弁論期日に当事者の一方が欠席した場合にはその者の提出した訴状、答弁書等を陳述したものとみなして相手方に弁論を命じ訴訟の審理を進めることを目的とするものであるから、相手方も欠席した場合には訴訟を進行することはできないが、これに反して第六三七条は配当手続における異議の完結を迅速にするため異議の申立をした債権者である原告が配当異議事件の最初になすべき口頭弁論期日に欠席した場合にはその懈怠の責を負わせ異議を取下げたものとみなし、その訴訟の審理をせずにこれを打切ることを目的とし、この場合には何らの裁判を要せずに訴訟は終了するものとしたと解するのが相当であるから、右期日における被告の出頭の有無に関係なく原告において右期日を懈怠した以上相手方である被告の欠席によりその責を免るべき何らの理由がないものというべきだからである。従つて、配当異議事件の最初になすべき口頭弁論期日については民事訴訟法第一三八条、第二三八条の適用の余地はなく、原告が右期日に欠席した場合には被告の出頭と否とを問わず訴訟は当然に終了するものと解するを相当とする。このように解しても欠席したことについて正当の事由がある等訴訟の終了を不当とする理由がある場合には期日指定の申立によつて訴訟終了の当否を争う方法はなお残されているのであるから、必しも原告に対し著しく苛酷であるとは解されない。
次に控訴人は上記原審での口頭弁論期日開始の少し前頃書記官室に電話をもつて同期日の変更方を申出ているのであるから期日懈怠り責はないと主張するが期日の変更は第一回の口頭弁論期日であつても顕著な事由がある場合でなければ当然に許されるものではなく、民事訴訟規則第一三条第一四条によれば、右事由を疎明しなければならず且つ変更の申立には相当の印紙を貼用しなければならないのであるから、書記官に対する電話の申出は変更を申出る旨の予告の程度に止まり未だ適式な期日変更の申立とは解し難いから右控訴人の主張は理由がない。
よつて、控訴人の期日指定の申立に対し、本件訴訟手続は終了した旨を宣言した原判決は正当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却することとし、同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石田哲一 杉山孝 矢ケ崎武勝)